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 木の葉の国にある、巨大な街。
 木の葉隠れ里は、忍の里。

 ……それは、本当?

羊の夢

 この大陸には数々の国があり、そして、幾多の忍たちの隠れ里がある。
 今でこそ隠れ里とは名ばかりの街と化しているが、戦乱の絶えなかった頃、忍の里とは影の存在であった。
 各国に属する正規の軍を陽の軍とたとえるなら、忍は陰の軍とたとえられる、そんな時代が確かにあった。
 だがしかし。
 今、その当時の面影を残すものは少ない…。


 木の葉の里の中心地を一望できる小高い丘の上。
 ひと気のないその場所に、ひとりの少年が立っていた。
 何をするでもなく、風が運んでくる街の喧騒に耳を傾けつつ、ただ無表情のまま佇んでいる。

 少年の名は うずまきナルト。
 この里に住む、忍のひとりである。

 彼は思う。
 愚かだ、と。
 そして、哀れだとも。

 夕闇の迫る中、まるで夜を恐れるように家路を急ぐ人々。
 殊更に騒がしくなる繁華街、歓楽街。

 その姿を見て、ここが忍の里であると誰が思うだろうか。

 忍とは、本来、闇に生き夜に棲むモノ。
 風に耳を傾け、川の流れに身を潜め、森の呼気に身を合わせる者。

 そんな生き方をどれだけの人間が覚えているだろうか。

 少なくとも、この里に住まう大半の人間は覚えてはいまい。
 そう思わせるほどに、この里は普通だった。
 だからこそ、異質であった。


 どれくらい経ったのだろうか。
 月影は無く、星明りだけが地を照らしている。
 ただただ街を眺めているナルトの耳に、カサリと枯葉を踏みしだく微かな音が聞こえた。

「また、見てるの?」

 その音に追随するように、少女のやわらかな声が届く。
 足音と同様にほのかに発している気配は、あたたかい。

「なんか用だってばよ」

 返事はすれど、振り向く気配を見せないナルトに、少女は諦めたように切り出した。

「火影様がお呼びよ」

 ナルトはため息をついて、振り向く。

「オレだけだってば?」
「私も一緒」
「だったら、いくってば」

 ナルトは少女の横に立つと、その細い肩に触れた。

「行こう、いの」


 少女は一度だけ街を見る。
 己が生まれ育った、木の葉の里。
 そこに住むのは血の繋がった家族や友人たち。

 平和という幻想に取り憑かれた街。


「行こう」

 少女は目を閉じると、ナルトとともに駆け出した。

 丘から出てきたのは狐と梟。
 特異な面をつけた二つの影は、夜の闇に紛れて消えた。


 羊たちは夢を見る。
 安穏とした夢を見る。
 木の葉の里は、うたかたの夢。
 夢を見るのは羊たちだけ。



END


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