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おつかい

 木の葉の里の大通りにはなかなか有名な店が軒を連ねている一角がある。
 呉服屋、小物屋、化粧に香。主に女性が好むいわゆるブランド街のようなものだ。
 特別上忍みたらしアンコが贔屓にしている和菓子屋もそこに店を構える由緒正しい老舗の名店であった。
 和菓子というものは季節や気候を敏感に反映し、最低でも1〜2ヶ月に一度は品が変わる。
 アンコは今日、新作の発売日ということで夜間任務明けの徹夜状態で店にやって来たのだった。


 老舗や名店というものは、まず雰囲気が違う。
 威厳のある中にも落ち着いた華を感じさせる内装、ショーケースには彩り豊かな上生菓子。
 店員も小奇麗な和装で、客は上流階級の御婦人たちが大半を占める。
 そんな店内に入ったアンコはとにかく浮いていた。
 任務帰りの特別上忍が忍服のまま現れたのだからそれも当然だろう。
 しかし、今日はいつもと違っていた。
 店に入っても、いつもは感じる客からの浴びるような奇異の視線を感じないのだ。
 今、客の視線を一身に集めているのは店の隅に居心地悪そうに立っている子供だった。
「ナルト?」
 里に珍しい金髪と特徴的な両頬の痣、目にも鮮やかなオレンジの上下を着たその姿は紛う事無き、三代目の被保護者、うずまきナルトであった。
 アンコの声に、名前を呼ばれたナルトは顔を上げて、驚いたように目を見張った。
「アンコねーちゃん?」
「あんた、こんな所で何してんのよ?」
 アンコは呆れたように言いながら、ナルトの隣に立つ。
 こんな所とは、場所を卑下して指しているわけではなく、純粋に似合わない場所に居るナルトに驚いての言葉である。
 慣れない場違いな所でひとり待つのは誰だって苦痛だ。それが他人から拒絶されることの多いナルトならば尚のこと、何か理由が無ければここまで人の多い場所に出てくることも無いはずだ。
「あんさ、あんさ。オレってば、じーちゃんのお使いなんだってば!」
 ニシシと笑う顔は先程までの沈みきった表情違って生き生きとしていて、アンコは内心ほっとする。
「三代目の? なに、重要な客でも来るの?」
 自分の分を馴染みの店員から既に注文してあった品を受け取り、アンコはナルトに向き直った。
「知らねー。けどなんか、みんなすっげー忙しそうだったってばよ」
 だから頼まれたんだと笑う子供に、アンコも笑う。
「あんた、三代目に信頼されてじゃない」
「そうなんだってば?」
「あたしには絶対任せてもらえない仕事ね」
 あははと笑うアンコとナルトの元に、店員が近寄ってきた。
「お待たせしました」
 声をかけてきたのはアンコ馴染みの女性店員。
 実はアンコのアカデミー以来の友人でもある。
「量が多いから包むのに時間かかっちゃって」
 苦笑する店員の後ろから、別の店員が大きな包みを持って奥から出てきた。
「あれが全部そうだってば?」
 店員ふたりが抱えてきたのは特大サイズの5段重ねのお重くらいの包みが3つ。
「三代目、一体どれだけ注文したのよ……」
「おはぎが100個、草餅が50個です」
 アンコの疑問に、重そうな包みを抱えた店員が注文表を見つつ答える。その声はどことなく疲れている気がしないでもない。
 そしてその計150個の餅が詰められている包みは、大人なら無理をすれば何とか持てるかもしれないが、ナルトひとりではとても不可能な量であった。
「せめて2つに分けようとしたんだけど……」
 苦笑する店員たち。
「むーん、どうやって持てばイイってばよ?」
 ナルトが腕を組んで考え込む。
 アンコも呆れ顔で頭を掻いた。
「仕方ないわね」
 溜息ひとつ、ひょいと店員のひとりから包みひとつを受け取ってナルトに告げた。
「手伝うわよ」
「え、え? でも、アンコねーちゃんも自分のあるってば…」
 遠慮しようとするナルトの頭に自分の包みをぽんと乗せ。
「手伝うから、お茶出してよ」
 火影の家のお茶なら、きっとコレに合うわよね。と茶化して笑うアンコにナルトは少し考えて、甘えることにした。
「じゃあ、お願いするってば」
 ナルトは両手にずしりと重い包みを持ち、アンコが自分用の包みとナルトの包みを持って、ふたりは火影邸に足を向けた。

 火影邸の離れ。
 その広々とした縁側に、ナルトとアンコはふたりで座っていた。
「んー、この漉し餡と半殺しのもち米の相性が抜群なのよねぇ」
 左手にはナルトのいれた玉露の湯のみ。
 右手に三代目から駄賃の名目で奪い取ったおはぎ。
 この店のおはぎは個数限定で、いつも開店直後に品切れをするほど人気のある品だった。
 アンコは幸せをかみ締める。
「美味しいってばよ」
 隣のナルトも幸せそうに頬張っている。
「たまには、人助けもいいもんだね」
 アンコがゆったりと零した。
「オレ、アンコねーちゃんのお陰でホンットーに助かったってばよ」
 ナルトが笑って感謝する。
「折角だから、これも食べようか」
 アンコは自分の包みを開く。
 季節限定の新商品、栗蒸し羊羹と栗入り餡団子。
 それを見たナルトは喜んで包丁と小皿を用意しに奥へと駆け込んでいった。

 火影邸の喧騒をよそに、暖かな日差しが降り注ぐ離れの縁側で、ふたりはこうして暖かな午後を美味しい和菓子と旨いお茶を両手にまったりと午後のひとときを過ごした。

 労働には報酬を。
 小さな子供にご褒美を。


 たまには誰かとゆっくり過ごす、暖かな時間もいいもんじゃない?




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