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賛成か反対か

 何故オレはあの時変化しなかったんだろうか。


 三代目の私邸に潜り込む。
 昼間なら門から入る事も出来たが、今は夜。
 正確に言うなら、夜更け過ぎの明け方に近い時間。
 そんな時間に訪れてもナルトでは追い返されるだけだし、冥の姿では暗部の訪問ということで大騒ぎになることは目に見えている。
 これから面倒ごとを起こそうとしているのは自覚している。
 だからこそ他の人間の目に触れないように、直接三代目の寝室に向かった。


 三代目火影の寝室。
 ナルトはするりと天井から降りた。
 場所はもちろん、三代目の枕元。
「起きてください三代目」
 片膝をついて、眠る老人に声をかける。
「………」
 が、目覚める様子はない。
 室外に漏らさないようにナルトは眠り続ける老人に向けて殺気を放つ。
 ついでにクナイを頬すれすれに突き立てた。
「…起きろよ、ジジィ」
「………こんな時間になんじゃ」
 やっと眠る老人が口を開いた。
 だがそれでも老人は目を閉じたまま起きようとはしなかった。
「話がある」
 諦めて、ナルトはそのまま用件を告げた。
「こんな夜更けに一体何の話があると言うんじゃ」
 目を開けることなく聞き返す老人の声はとても寝起きの人間の声ではなかったが、ナルトは気にする事なく一言。
「ばれた」
 そう言って口を噤んだ。
「……誰に、何がばれたと?」
 要領を得ないナルトの言葉に、老人はしぶしぶといった態で半身を起こした。
「…山中の娘と奈良の息子、秋道の息子」
 溜め息を吐いて三代目火影は布団の上に座り直し、ナルトに向き合って座るようにと手で示した。
 ナルトはその指示に首を振って拒否する。
「一体どういうことじゃ」
 ナルトとその3人の接点が見出せず、三代目は首をかしげる。
「昨日、山中・奈良・秋道の子供がアカデミーに侵入した」
「それは昨日の楓吏の報告にあったが、一体何故ばれるなどという事になったんじゃ?」
 嫌そうに眉間に皺を寄せ、ナルトは続けた。
「侵入者と勘違いしたんだよ。奈良の子供がオレの張った結界を解きやがったんだ」
「なんと。お主の結界を解くなど、奈良の息子はそこまでの能力を持っておるのか」
 心底驚いたと言わんばかりの声に、ナルトはそうだと頷く。
「そのうえ、御丁寧に3人とも変化の術で姿まで変えてな」
 苦々しく呟くナルトに老人は苦笑する。
「それでお主も騙されたという事か」
「オレのミスだ。それは否定しない」
 ナルトはひと呼吸置いて続けた。
「じーさんに頼みたい事がある」
 ナルトの口から頼みという言葉を聞いて、老人は内心慌てる。
 アカデミーに入学してから、否、暗部に入隊して以降一度として口にした事のない言葉。
 誰にも頼ろうとせず、ひとりで立つ事を己に強要した子供がそう口にしたのだ。
 老人は驚きを飲み込み、思案する。
 その一件から随分と時間が経っている。
 その事も考えあわせれば、ナルトがそれだけ悩んだのだろうというところに思考は落ち着いた。
「頼みとはなんじゃ?」
 三代目のその言葉に返すナルトの声は至って冷静だった。



 火影呼ばれ、訪れた執務室で見知った顔を見つけた3人はそれぞれ微かな困惑の表情を浮かべた。
「火影様」
 3人が入室するとすぐ三代目の後ろに控えていた暗部が三代目の名を呼び、何ごとかを耳打ちする。
 三代目火影はその暗部に頷き、次いで3人を見た。
「揃ったようじゃの」
 執務室には、呼ばれた3人と三代目火影、そしてその後ろに控える暗部が2人。
「秋道、奈良、山中。今日お主たちを呼んだのは、お主たちの子供のことでの…」
 言い淀む三代目に名前を呼ばれた3人の上忍が互いに顔を見合わせた。
 3人にはそれぞれ同じ年の子供がいるが、まだアカデミーにも入学していない年齢。
 その子供達が一体どうしたのだろうかと首をかしげる3人。
「昨日、お主らの子供3人がアカデミーに侵入しおった。お主らは聞いておるか?」
 盛大な溜め息を吐いて言う三代目に上忍たち3人は疑問を抱いたようで、首をかしげつつ火影に問う。
「今、なんと?」
「アカデミーに侵入、ですか?」
 奈良と呼ばれた黒髪の男と、山中と呼ばれた淡い色の髪の男が続けざまに返す。
「そうじゃ」
 重々しく火影が肯定して頷く。
「何かの間違いではありませんか?」
 どっしりとした体格の秋道と呼ばれた男が慌てて言葉を重ねる。
「アカデミーに子供が入っても何も問題は…」
 そう言いながら、途中から声が途切れた。
 思い当たる節があるのか、考え込んだ秋道が再度口を開く。
「まさか、旧家の…?」
「その通りじゃ」
 秋道の言葉を三代目が肯定する。
「ここ数年、旧家や名家と呼ばれる家の子供を狙う輩が増えてきておるのは知っておろう。アカデミーでも日向分家の者が入学した数日前から暗部の者に見張らせておったのじゃ」
 三代目の話を黙って聞く上忍たち。
「ところが、じゃ。昨日暗部の者2人が張った結界を解いて3名が侵入した」
 静まり返った室内に響く言葉をまっ先に理解したのは奈良だった。
「それがうちの倅と秋道の倅、山中の娘だと?」
 半信半疑どころか、全く信じられないと仄めかす。
「何かの間違いじゃないですか? あの子たちがアカデミーに赴く理由なんて無いですし」
「第一、アカデミーに入学もしていない子供が暗部の結界を解くなんて…」
 奈良に続いて山中、秋道が言い募る。
 火影の言葉を疑うつもりはないが、身近な、それも自分の子供の事だけに信じられないのだ。
 そんな3人の様子を見て、眉間に皺を寄せてキセルをふかす三代目。
「事実じゃ。子供達は3人とも変化の術を用いて姿を変え、結界を解いて入ってきたと報告書にも書かれておる。じゃが、問題はそこではないんじゃよ」
 なにかを含んだような火影の言葉に、話の焦点になっている子供達の父親である上忍たちが無言になる。
「結界を解いたのは良い。もともと侵入者を退けるものではなかったからの。じゃが、子供達は少々厄介な立場になってしもうての…」
「どういう、ことですか……?」
 3人中最も子供を溺愛していると噂の山中が反応する。
 それに答えたのは、火影の後ろに控えていた暗部だった。
「暗部の者の張った結界を解いただけでなく、彼らはその暗部の個人情報まで知ってしまったんですよ、山中上忍」
 足音どころか気配すら断っていた男の声に、上忍たちの視線が一斉に動く。
「貴方もご存じでしょうが、暗部に属する者の情報は里の機密です。ですが、あなたのお嬢さんは任務中の暗部に接触し、あまつさえその暗部の情報を他者に漏らした」
「な…っ!」
 感情の籠らない声で語る暗部に上忍たちは抗議の声をあげるが、それを無視して暗部は続ける
。 「他者とはその場にいた奈良上忍と秋道上忍のお子さんです。ですがこれは子供だからと言って許されるべきものではない。お分かりですね?」
 暗部の情報を漏らした少女同様、それを知った少年たちも同罪だと言い切る暗部に、上忍たちは眉根を寄せた。
「それで、火影様はどうなさるおつもりですか?」
 多少混乱しているだろうが落ち着いた声で奈良が火影に訊ねた。
 暗部の任務に接触した場合、大抵がその記憶を消去される。
 それは小さな子供であろうと里に関係のない人間であろうと変わりなく行われ、その行為自体も知らされる事はないものだと聞き及んでいる。
 それなのに今回の場合は当事者ではないが、その事が親に伝えられた。
 プロフェッサーとも呼ばれる老練の三代目が理由なくそのような事をするとは考えられなかった。
「うむ。本来ならばその場で記憶処理を行う所なのじゃが、子供達が結界を解いた隙に本当の侵入者も忍んできおっての。そちらの方を優先した結果、どうも記憶処理が困難な状態になったのじゃ」
「無理に記憶を消そうとすれば……ごほっ、精神に障害を及ぼす可能性が出てきたのです」
 火影の言葉を継いだのは、それまで黙って立っていたもうひとりの暗部だった。
「ごほっ……アカデミーに入学前で結界の解除ができるような人材が…ごほっ…使えなくなるのは避けたい事なんですね」
「じゃからの。主らには協力してもらおうと思うての」
 火影の言葉は笑いを含んでいた。
「私達に拒否権は…ないようですね」
「子供達をどうするかはお主達の返答次第じゃ」
 3人の上忍はそれぞれの顔を見合い、息を吸うと声を揃えて言った。
「お受けいたします」



 3人の父親上忍たちが去った執務室で、火影は暗部の2人に呼びかけた。
「月英、楓吏」
 火影の声に応えて、後ろに控えていた2人の暗部が三代目の前に並ぶ。
「良いのですか、三代目?」
 楓吏と呼ばれた暗部が火影に訊ねる。
 その横では同じように月英と呼ばれた暗部も頷いている。
「何がじゃ?」
「冥の頼み事は『子供達の記憶を消すか二度と近づかせない事』だったと思いますが?」
「そうじゃ。じゃがの、あやつらにも言うたが、子供達の記憶を消すのは危険が高いのじゃ。それにアレの言葉の意味は子供達を危険に晒したくないということじゃからな。危険にならんようにすれば問題もなかろうて」
 ぷかりとキセルから紫煙を吐いて三代目が笑う。
「それとも、お主らは反対かのう?」
「ごほっ…賛成も反対もないでしょう」
「そうですね、それにその方が楽しそうですしね」
 月英と楓吏は面の下でそれぞれに笑いながら賛意を表した。
「そういうことじゃ。良いな?」
「御意」
 にやりと笑った三代目火影に暗部の2人は頷いた。



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