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 オレは愛されて育った。
 判りにくいものではあったが、確かにそこには『愛』が存在していた。
 里の大半の人間はオレと九尾とを同一視していたけれど、彼らは違うと笑う。
 オレはオレで、九尾は九尾で、全く別の存在なのだと。
 だからこそオレにも九尾にも意味があるのだと。

 この里は決してオレに優しい場所じゃない。
 それでも、そんな中でオレを愛してくれた人は存在している。

 オレが生まれた時、里は壊滅寸前だったらしい。
 生まれ落ちた時には、母親は瀕死だったと聞いた。
 混乱の中取り残され、九尾の攻撃の余波を受けたのだと。
 また同時にこうも聞いている。
 彼女は逃げられない病人たちを護るために病院に残り戦ったと。
 臨月まではまだ日があったにしても身重の女性がそんな事をするなんて、そんなに彼女はこの里を愛していたのだろうか。
 そう聞いたら、答えは違っていて。
 驚いた。

 彼女が護りたかったのは。
 オレと。
 オレのための里。

 母親とはそんなものだと。
 笑ってそう言ったのは、母親どころか曾祖母と呼ばれるだろう年代の女性だった。

 利己的なオレの母親。
 利己的な里。
 利己的なオレ。
 利己的なオレたち。

 そう考えたら、楽になった。

 オレはオレのために生きよう。
 オレの大切な存在のために生きよう、と。

 そういったら、隣の老人がうなずいた。
 人間はみなそうだと。
 他人のためなどで己を消すのは欺瞞だと。
 己のために生き、己のために何かを成すことは、大切なものを護る力になると。
 大切だと思うものは己の力で護らなければ意味が無いのだと。

 老人たちが笑う。
 俺も笑う。

 暗い、くらい、わらい。


 それはまだ、オレが外の世界を知らなかった頃。



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